――ある日の石の家での出来事。

「――ねぇ、サンクレッド。グ・ラハ・ティアが二人いるように見えるんだけど……私の目が悪くなったのかしら。」

「いいや。あんたの目は正常だぜ、アリゼー様。」

そう言う二人の目の前では、最近『暁の血盟』に加盟した赤髪赤眼のミコッテ族の男、グ・ラハ・ティアが何故か二人存在し、その恋人であるアルバ・クレセントを取り合っていた。

「――で、どういう状況なの?」

己の目が正常ならば、目前の状況はどういったことなのか。アリゼーは事態を見守っていたサンクレッドに問い掛ける。

「何、アラグ技術が使われている疑惑のあった場所へ、我らが英雄殿と冒険に出ていたらしいんだが……そこにあったトラップに引っ掛かった奴さんをあいつが庇い、ああなったらしい。」

サンクレッドはやれやれと溜め息を吐き、さらに言葉を続ける。

「それで、原因を調査した結果、体と魂を分離させる兵器の試作品の影響だということがわかった。健全な肉体と魂ならば、効果が発揮させられれば良い方といった程度の効果しかなかったようなんだが……あいつは魂が2つ重なっている状態だからな。変な影響が出て分離しちまったんだと。」

話を聞いたアリゼーが、呆れた様子のサンクレッドを見て眉を寄せて尋ねる。

「……それ、大丈夫なの?」

「どうやら大丈夫らしい。様態を視たヤ・シュトラ曰く、魂のエーテルが引かれ合っている様子からして一晩程度で元に戻るだろうとのことだ。――まぁ、その副作用でひどく感情的になりやすい状態だってことで、さっきから監視してるんだが……」

そこで話を区切ったサンクレッドが、未だ騒がしい背後を親指で指差す。

「――アルバが仕事から帰ってきてからというもの、ずっとあの状況だ。いい加減にしてほしいってもんだぜ……」

はあぁ…とサンクレッドが大きく溜め息を吐く。そう言われてから彼らの方を見ると、なるほど、呆れて溜め息を吐きたくなる気も分かるような痴話喧嘩が続いていた。

「――そういうことなら、私がしばらく見ているから、サンクレッドは休憩してきたら良いわ。」

「そいつは、俺にとってはありがたいが……いいのか?」

妙に意気込むアリゼーに、サンクレッドが訝しげに尋ねる。すると、アリゼーは大きく頷いてこう言った。

「――ええ。ここであいつの弱味を1つや2つ手に入れて、抜け駆けしてあの人と冒険するのを、どうにかしてやるんだから。」

その様子を見たサンクレッドは肩をすくめ、その場を後にする。アリゼーはその場で腕を組み、妙にギラついた瞳で一人と二人の様子を見始めるのだった――