——雨が、降っている。
暗い部屋の中、私は明かりを点けることもなく、ただただ、静寂に身を委ねていた。ベッド以外に何も置かれていない、がらんとした部屋の中に、ぱたた、ぱたた、と雨漏りの音だけが妙に響く。
——ギシリ。身動ぎするだけで軋むベッドには、自分以外の温かさなど、もう存在していない。新月の夜に、エーテルの海へと旅立ったのだ。
「三日月は幸運だって言っても、雨で見えないよ……お母さん……」
振り続ける雨の音を聞きながら、ひとり静かに目を閉じた——
◆ ◆ ◆ ◆
——雨が、降っている。
霧雨だ。ここ、ゴルモア大密林では、乾季でしか発生しない珍しいタイプの天候である。
あたしが産まれた日も霧雨が降っていたらしく、名前もそこから取られた。あたしは霧雨(ウヴィ)、片割れは霧(プォカ)。集落では珍しい双子だったこともあり、危うく"忌み子"として処されるところだったのを、師匠が止めてくれたらしい。運命がどうのって話だったそうだけど、昨年に師匠が亡くなったから聞けず終いで——
バサササササッ
近くで飛び立った鳥の群れの音に、ハッとして意識を戻す。
(そうだ、今は狩りの最中だった。プォカが遅いから、ぼーっとしてたや。)
プォカが追い立ててくる獲物を待ち伏せるため、改めて木の上で息を潜める。雨で冷えた空気が樹木に沿って下りてくるため、少々肌寒い。雨除け用のマントをしっかり体に巻きつけて、その時を待つ。——すると、雨で強まった森の香りに紛れて、遠くの方から興奮した獣の臭いが香ってきた。
(——来た。)
長い耳をピンと立てて、獣の位置を探る。遠くの方からガサガサと一直線にこちらに向かってくる音と共に、臭いも強まっていく。
(音の多さからして、複数いるね。ミルクのような甘い香りがするし、子連れの群れかな。たくさん狩れたら妹達へのお土産にできそうだ。)
強まる臭いに弓を持つ手が強張り、緊張で肌がピリつく。意識して息を深く吐き出すと、弓に矢をつがえ、ゆっくりと構える。
ガサリと茂みから飛び出した一頭目を射止める。二頭目、三頭目と、次々と射掛けていく。当たったかどうかは確認しない。確認している間に次の獲物は逃げるし、当たっていればプォカがとどめを刺してくれる。あたしは、ただただ矢を射続けた——
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